身体が動かない。手足をばたつかせようとしたが、思うようにいかなかった。
縛りつけられているのとは違う感覚がする。身体の各所が妙に重たい。まぶたですら重量が増しているようで、目を開けることができなかった。
どうしてこんな状態になったのか。
真っ暗な視界の中、記憶の糸を手繰り寄せ、フレッドはやっと直前の出来事を思い出した。
そうだ、暴れ球がぶつかったのだ。
ジョージの声に反応して暴れ球を視認したのはよかったが、打ち返すことも避けることもできずに頭を打った。
こんな初歩的なミスをしたのはいつぶりだろう。少なくとも、この数年の間にはやらかしていない。
試合中は、暴れ球以外にも見るべきものがたくさんある。味方選手の位置やクァッフルの所在、さらに敵選手の飛んでいる場所も把握しておく。
フレッドの担当するビーターは、味方の防衛と敵の妨害を行うため、試合全体を見ておくとやりやすくなるのだ。
肝心の暴れ球の注意を怠ってしまったがために球から一撃を受けるビーターもいる。最も、そんなことをやるのはビーターになって間もないような選手ばかりだが。
フレッドが先ほどまで置かれていた状況は、試合中のものとは違った。
ドップルビーター防衛の強化練習中だ。フレッドは暴れ球だけを見ておけばよかった。他に見るものがあったとしたら、相棒のジョージくらいのものだ。
それなのに、自分は何に気を取られていたのだろう。
頭に衝撃を受ける直前の光景を思い出そうと、意識を集中させた。
真っ黒だったまぶたの裏に、ぼんやりと青い景色が蘇る。
あのときにフレッドはたしか、目を細めた。
晴れ渡った空の下で、眩しいものを見たのだ。何を見たのだろう。
太陽だったろうか。──いや、もっと低いところにあったものだ。太陽を見るほどに顔を上げてはいない。
スニッチだろうか。──違う。フレッドはスニッチに注意を向けることはない。視界に入れば目で追うこともあるが、それだけだ。暴れ球の接近に気づかなくなるほど心を奪われることはない。
心を奪われるとは。
最近の自分の状況にも同じことが言えた。ここのところ、フレッドは心ここにあらずだった。
もしもフレッドが他のものに構うことができず、たった一つのものだけに心を奪われてしまったのだとしたら──思い当たるものがある。
──そうか、なるほど。
頭を叩きつけられてやっと、フレッドは自分の心が誰に向いているのかを理解した。
フレッドにとって、金色に光るスニッチよりもずっと眩しく輝いているものだ。
ゆっくりと目を開いた。