結局、ルビー色の百味ビーンズがどんな味だったか、言語化することはできなかった。口に入れたときの、諸々の刺激ばかりが記憶に残っている。
何とも形容詞し難い味を表現するのに相応しい言葉を、今なら見つけられるかもしれない。
ハリーは真っ赤な粒を口へ放り込んだ。覚えのある刺激がすぐに襲ってくる。相変わらず、顎に刺さる味だ。
「どんな味?」
面白がるようにジョージが訊ねてきた。
記憶にある彼によく似ているけど、全然違う顔だ。彼によく似た笑みを浮かべて、彼によく似たことを問うてくる。だが、この人は彼とは違う。
目の前のこの人は彼と同じことはしないと、ハリーはよく知っていた。万が一、億が一、同じようなことをしてきたとしても、彼と同じように受け入れることはない自分のことも重々承知している。
ハリーの口の中に入れたこの粒は、やはり何とも言い難い味だった。敢えていうなら、こう評するしかないだろう。
「クソみたいな味だね」
粒は思いっきり噛んでやった。
今のハリーの口の中には、噛んで困るようなものは何一つない。
end.