小さな悪戯と穏やかな眠り

悪戯を愛する双子は子どものころからの夢を若くして果たした。悪戯道具を販売する二人は、いつ見ても楽しそうに笑っている。

趣味を中心に作られた店であるために、遊びながら運営していると思われることもあるが、その実態は違う。経営者である二人は店番の他にも、商品開発、在庫管理、製造を委託している工場との取り引きなど、客の身では見えないような仕事が山ほどある。

彼らがいつも賑やかに騒ぎ、笑っているから、はたからは彼らの仕事量が見えないのだ。ハリーも、彼らの仕事を何度か手伝っているうちにやっと気づいた側面だった。それまでも漠然と、何かすごそう、と思ってはいたがここまでとは思いもしなかった。

彼らは自らの仕事量をひけらかしはしないが隠してもいない。笑顔で店を切り盛りしているその姿が全てなのだ。店に対する彼らの熱意と愛を感じる。

彼らがただ遊んで悪戯をして暮らしているわけではないとハリーはよく知っていた。だからこそ、新商品の販売決定祝いとして飲み明かし、寝坊をしたとしても起こさずそのままにしてあげている。今日は店が休みのため、彼らを無理に起こす必要はない。

こんな日くらいゆっくり寝かせてあげよう。

気を利かせたハリーは、リビングルームを占領して一人で悠々と過ごしていた。

昨日はハリーも共に酒を飲んだ。もう遅いから泊まって行きなよと言ってくれたのはジョージだ。数分後、正体をなくした二人を彼らの部屋まで連れていく羽目にはなったのだが、泊まりを許可してくれたのは有り難かった。賑やかな双子と別れて、誰もいない自室に帰るのは寂し過ぎる。

酔っ払った双子をモビリコーパスで動かし──自分より一回りは体格のいい男たちを運ぶなんて所業は魔法の力を借りなければできそうにない──部屋に入れてから、前に置いていった毛布を引っ張り出した。厚手の毛布に包まり、リビングルームのソファを借りて眠りに就いた。

ハリーが目を覚ましたのは、早朝とはとても言えない時間だった。二人の気配はない。起こしに行くべきか少しだけ迷ったが、双子を部屋に押し込んだとき──ドアを閉める直前、赤ら顔のフレッドに、明日は太陽が真上に来る前には起こして、と頼まれたことを思い出した。

明日とはつまり今日のことだ。そんな時間になる前には自力で起きてくるだろうと大人しく待った。それなのに二人はまだ来ない。ハリーの見立てでは、あと数刻もしたら太陽が真上に来る。さすがに遅い。

昨日食べ残した食事を軽く腹に収めてから、双子の部屋に向かった。

「フレッド、ジョージ。起きてる?」

ノックをしてから、ドア越しに二人を呼んだ。返事がない。仕方ない、起こしてやろうではないか、とドアを開け──絶句した。

この光景は、全く予想もしていなかった。

シングルベッドに成人男性が二人、窮屈そうに収まっている。

そのすぐ隣に同じサイズのベッドがあるのに、彼らは一つのベッドで寝ていた。

仲が良いとは思っていたが、同じベッドで寝るほどだったとは。

昨日飲んだときの服装のまま、ベッドの上に寝転んでいる。着替えもせずに布団へ飛び込んだらしい。

フレッドは腕を枕にして足を伸ばし、ジョージはその正面で腰を屈めるようにして寝ていた。丸まって寝たいようなのだが、共にベッドに乗っている人間の身体が大きいため、上手くできずにいる。やや膝を折り、腹を見るように首を曲げているだけで留まっていた。

仲睦まじく眠る二人を引き裂くのは気が引ける。しかしハリーは起こしてほしいと頼まれていた。何よりそろそろ一人で過ごすのにも飽きてきた。ごめんね、と内心で軽く謝りつつ、双子を叩き起こすために腕を振り上げる。だが、

「え────!?」

ハリーの腕は空を切り、代わりに前腕を掴まれた。気づいたときには、ハリーの身体はベッドの上に転がっていた。フレッドとジョージが寝る、その間に挟まれている。慌てて二人の顔を見上げると、にんまりと細められた四つの目が視界に映った。

「起きてたなら言ってよ!」

ハリーは二人を睨みつけたが、二人には堪えた様子もない。フレッドが片眉を吊り上げた。

「ずっと起きてたわけじゃない。ハリーの可愛い足音が聞こえてきたから目が覚めただけさ」
「そうそう、せっかくなら自分で起きるより君に起こしてもらった方がずっと幸せだからね」

ジョージが半身を起こしてから続けた。

「だから寝たふりをしてたってこと」

ハリーはじろりと目を細めて二人を見たが、しばらくして小さく溜息をこぼしてから、諦めたようにベッドに体重を預けた。

狭いベッドに三人も寝ているせいで、とても密着している。またつい先ほどまで彼らが眠っていたのは本当のようで、二人とも体温が高い。じんわりとハリーの身体が温められていく。次第に、ハリーの瞼の重みが増してくる。

「ハリーも一緒に寝よう」

ジョージは欠伸を一つして、再びベッドに身体を預けた。フレッドはハリーの腹に手を載せ、子どもをあやすようにぽんぽんと叩いている。

「でも……太陽が真上に来るころには、おこしてって……」

自分の口から出てきた言葉だが、呂律が怪しげだ、と他人事のように感じた。

「まあ、今日は休みだから」
「今日は一緒に寝てようよ」

フレッドとジョージが畳みかけるように誘ってくる。今日は店は休みだし、ハリーも休みを取っている。どこかへ出かけなればならない用事もない。

今日くらい、こうやってゆっくり過ごしてもいいのかもしれない。

ハリーは瞼を下ろし、穏やかなまどろみの中に身体を沈めた。

 

end.

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