あの少年の姿をつい探してしまうのは決して彼がその名を知らない者がいないほどに有名だからではない。
どれほど人が大勢いたとしても小柄なはずの彼を見つけられてしまうのも、のっぽの末弟が目印になっているからだけではない。
そのことに気づいたのはいつだったのか。もう思い出せないほどにずっと前のことだ。
相棒よりも早くに気づいていた自信がある。
もしかしたら、相棒はまだ気づいていないのかもしれない。
彼を見つけるのは二人同時で、声をかけることを決めるのも二人同時だ。直前に、互いに目を見合わせるが言葉は交わさない。言葉がなくとも何をしようとしているのか互いに察することができる。
相棒の目に映る彼への感情はわずかで、ほとんどはいつものからかい調子の色に染まっていた。
自分と同じように相棒もまた彼にどうしようもない気持ちを抱いていると思い込んでいたが、そんな気持ちを抱えているのは自分だけなのかもしれない。
時折、空虚な感情が心に吹き込む。
だが、恐らく――と確信めいた思いはあった。
相棒が彼をどう思っているのか、分からない。
わからないままに声をかける。
軽い挨拶をして、軽くからかって。それに対して少し冷めた応対をされて。
そして、二人で言うのだ。
大好きだよ。
愛している。
大仰な動きをつけて、からかい調子の顔はそのままで、二人で揃って彼に言う。
すると、彼は呆れたように笑って応える。
冗談だと思っている。冗談としか思われていない。
ああ、酷いぜ、ハリー。
俺たちを信じてくれよ。
芝居がかった口調で言えば完璧だ。
これでいい。
全部、冗談でいい。
彼は立ち去ろうとそのまま背を向ける。
こちらの用事がからかうことしかなかったのだ。当然だ。悪戯心を表面に貼りつけた双子は、あっという間に見切りをつられた。彼はさっさと去ってしまう。いつもと同じ。
少しだけ違うのは、日に日に強くなる自分の中の熱だけだ。
――この背中を引き寄せてしまえたら。
ちらり、と隣を見る。
相棒は、つまらない反応だよな、と肩を竦めるばかりだ。自分のようなどろどろとした感情を持ち合わせていないのが見て取れる。
本当に面白くないよな、とだけ答えて、両手をポケットに入れた。
この手は伸ばさない。
この先ずっと、永遠に伸ばせなかったとしても、相棒と不毛な争いをするくらいなら、その方がましだ。
ずっと、そう思っていた。
end.